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高松高等裁判所 昭和58年(く)31号 決定 1983年12月16日

少年 M・R(昭三九・六・一四生)

主文

本件抗告を棄却する。

理由

本件抗告の趣意は、少年作成名義の抗告申立書に記載のとおりであるから、ここにこれを引用する。

所論は要するに、原決定の処分の不当を主張し、少年は成人間近であり、本件も交通関係の事件であつて、他に一般非行はなく、十分反省もしているから、事件を検察官へ送致し、成人並に処遇して欲しいというのである。

そこで一件記録にもとづき検討すると、少年を特別少年院に送致した原決定の処分が正当であることは、原決定がその理由を詳しく述べているとおりであり、当裁判所もこれを是認することができる。本件非行自体は交通事故とこれに関連する事案であるが、その経緯は、少年が夜遅く飲酒し街を歩行中、車に乗つた見知らぬ男と喧嘩し、車のドアに手をかけて振り落とされたことに憤慨し、来合せた友人の車を運転して追跡する過程で本件各非行に及んだもので、単純な交通事犯と同視することはできない。また、これらの背景として、少年が特別少年院を仮退院後帰住していた祖父宅を勝手に出、友人宅を転々としたあと年少の女性と同棲し、暴力団員の露店の手伝いをして生活していたという少年の日頃の行状、生活態度をも問題とせざるを得ない。鑑別結果によれば、少年は自己顕示性と衝動傾向の強い性格特性を有し、かなりの反社会的生活態度と価値感が身に付いているが、少年の生活環境は劣悪で、少年を適切に指導監督すべき者はおらず、少年を成人と同じように処遇することによつては少年の改善を期待することができず、むしろ再度の特別少年院での強力な生活訓練によつて、内省をうながすとともに自制力を身に付けさせ、今後の有用な生き方や社会への対応の仕方を修得させることが必要であると認められる。従つて、少年の主張は採用できない。

よつて、本件抗告を棄却することとし、少年法三三条一項により、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 金山丈一 裁判官 高木實 田尾健二郎)

抗告の趣旨

私は昭和五十八年十一月二十二日、午後一時半から、業務上過失傷害及び道路交通法違反で審判を受け、処分として、特別少年院送致になりました。今回の事件から考えて、この処分は、私としては不満で納得がいきません。私は、二十歳も目の前ですし、自分の犯した事件に対しては責任はとりますが、今回の事件以外に窃盗や覚醒剤等の事件があれば少年院送致になつてもふふくがありません。ですが、今回は先にももうした、交通と業過だけですので責任は大人の事件としてみてもらつて、刑事処分の検察官送致にしてもらいたいのです。私も今回した事件に対して、被害者や迷感を掛けた友達等に対しては、私なりに反省しているし、事件以外にも生活はふしだらだつたかも知れませんが、それでも警察に捕つたり、社会の人に迷惑をかける事なくやつていたのです。もう一度審判をやり直をしてほしいです。

〔参照〕原審(徳島家昭五八(少)一四八九、一五八七号 昭五八・一一・二二決定)

主文

少年を特別少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、

第一 普通仮免許を受けているものであるが、昭和五八年七月一五日午後一一時五〇分ころ、徳島市○○○×番地先路上において、その運転者席横の乗車装置に当該自動車を運転することができる第一種免許を受けている者で当該免許を受けていた期間(当該免許の効力が停止されていた期間を除く。)が通算して三年以上のもの又は当該自動車を運転することができる第二種免許を受けている者(免許の効力が停止されている者を除く。)その他政令で定める者を同乗させないで、かつ、車体の前面及び後面に総理府令で定める様式の仮免許練習中標識を表示しないで普通乗用自動車(徳××そ××××号)を運転した

第二 運転免許を得る目的で反覆継続して運転業務に従事しているものであるが、同日時場所において同車両を運転し、同市内○○町方面から○○○町方面に向け時速約五〇キロメートルで進行中、およそ自動車運転者としては絶えず進路前方、左右を注視し危険の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、喧嘩をした相手の逃走車両を追跡することばかりに気をとられて進路前方に対する注視を欠いた過失により、折から前方信号交差点で赤色信号に従い停車していたA子(当五九歳)運転の普通乗用自動車をその後方約六・六メートルまで接近して初めて発見し急制動の措置をとつたが間に合わず、自車前部を同車後部に追突させ、その衝撃により同人に対し全治約五一日間を要する頸椎捻挫の傷害を負わせた

第三 第二記載のとおりA子に傷害を負わせる交通事故を起こしたのに、直ちに車両の運転を停止して同人を救護する等法律に定める必要な措置を講ぜず、かつ、その事故の発生の日時場所等法律の定める事項を直ちにもよりの警察署の警察官に報告しなかつた

第四 第一ないし第三記載の罰金以上の刑にあたる道路交通法違反及び業務上過失傷害の罪につき、これが発覚することを恐れ、その処罰を免れる目的で、前同日午後一一時五五分ころ、徳島市○○等の市道を逃走中の前記少年運転車両(徳××そ××××号)内で普通免許を有するB(当一八歳)に対し、お前が運転しよつたことにしといてくれ等と申し向け、その結果、本件が発覚すれば少年が仮退院してきた少年院に戻されるかもしれないことを後日知つたBをして、同月一九日午後雰時五分ころ、徳島県小松島市○○町○○××番地の×先でその取調べにあたつた○○○警察署司法警察員巡査部長○○○○に対し、自己が前記車両を運転中にひき逃げ交通事故を起こした旨の虚偽の事実を申告させ、もつて犯人隠避を教唆した

ものである。

(法令の適用)

第一事実につき 道路交通法八七条二項三項、一一八条一項六号、一二〇条一項一四号

第二事実につき 刑法二一一条前段

第三事実につき 道路交通法七二条一項前後段、一一七条、一一九条一項一〇号

第四事実につき 刑法一〇三条、六一条一項

(処遇の理由)

一 少年は、昭和五七年一二月一五日特別少年院を仮退院し、祖父母の許に引き取られ祖父の営む表具職の手伝いや叔父の営む鉄工所の手伝いなどをしていたが、昭和五八年三月末ごろ家出し、暴力団の許に身を寄せて的屋の仕事をするとともにアパートで一六歳の少女と同棲生活を始めるようになつた。そうしたなか本件非行に至り、その発覚による逮捕を免れるため知り合いの暴力団組員を頼つて大阪市内へ逃れ二ヵ月余り同市内で過ごしたが、その間にも新たに二人の女性(二〇歳と一六歳)と相前後して同棲生活を送つている。その後岡山県、島根県、宮崎県を転々として逃走生活を続けていた。前記家出後は保護司との接触も皆無に等しい状態であつた。このように特別少年院仮退院後僅か三ヵ月後からでたらめな生活態度をとるようになり、そうしたなかでの規範意識の欠如ならびにやくざ志向、正業意欲の欠如、異性関係のルーズさを特に指摘しなければならない。

二 少年は、二歳時に実父母が離婚し、以後実母と祖父母の許に引き取られたが、実母は少年に対する監護を省みず覚せい剤事犯などを繰り返し遂には服役するようにもなり、実母の内縁の夫は暴力団員で同じく覚せい剤事犯等で服役する有様であり、また祖父母は甘やかしに終始していたようである。そういうわけで少年に対する幼児期からの監護教育は極めて不良であり、殊に少年にとつて適切なモデルが存しなかつた憾みは強く残るところである。このような生育状況のなかで少年は小学四年時ころから万引等の問題行動を見せ始めるとともに、怠惰、徒遊の生活態度を身につけるようになり、窃盗、無免許運転事犯により昭和五四年七月五日から昭和五五年一一月二六日まで初等少年院に在院し、その後強姦、公務執行妨害、毒物及び劇物取締法違反、窃盗事犯により昭和五七年一月一三日から同年一二月一五日まで特別少年院に在院し、矯正教育を施されてきた。

三 少年の資質等をみるに、知能は準普通域(I・Q=八一)にあつて特に問題はないが、自己顕示傾向や衝動性が強く、他方欲求不満耐性や自己統制力に乏しい。総じて人格的、社会的に未熟である。

四 少年の年齢(当一九歳)等も考慮するとその価値観、生活態度等は本件の前後を通じてみられるところに固まりつつあるようにも見受けられる。しかしながら、少年自身元来は気の弱い性格であり内省力もあることから、これまでの矯正教育にも拘らずまだ保護処分の枠内での矯正可能性が残されているものと信ずるし、これまでの生育環境が問題で少年自身それに強く影響を受けてきたと言えるだけに可能な限り堅実な生活態度を身につけさせておくことが必要である。

五 以上の諸点その他諸般の事情を総合して、少年の健全な育成を期するため再度特別少年院に送致するのが相当と考えた。今度こそ堅実な人生の基盤となる生活態度と規範意識を確実なものとして身につけ、実社会においてそれを実現できるまでになることを期待する。

六 よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項により主文のとおり決定する。

裁判官 以呂免義雄

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